うみねこの読み方 [犯人考察]

うみねこのなく頃に」の犯人像についてまとめておく。



うみねこでは作中で最後まで犯人が直接的に名指しされることは無い。
これはトリックや動機についても同様で、特定できる直前で記述が打ち切られてしまっている。
ここではうみねこ作中にて語られるミステリーの三要素に則り、犯人像を明示しようと思う。



Who done it ?

犯人は紗音こと安田紗代。
金蔵に迎え入れられた後の名で言えば右代宮理御。
他、作中ではヤスと呼ばれたりクレルと呼ばれたり誤魔化しが激しい。

嘉音とベアトリーチェは彼女の演じる「別人格」である。
厳密な多重人格の定義からは外れるが、他に便利な単語も無いので「人格」と呼んでおく。
「自作自演」と呼んでしまうのは少々気の毒か…。


How done it ?

各ゲーム盤の事件において、主に用いる手口は以下の通り

  1. 多額の現金を背景とした、偽証等に加担する複数の共犯者の獲得
  2. 「嘉音」「ベアトリーチェ」を一人三役で演じ、共犯者にその行動を偽証させることによる不可能犯罪の演出
  3. 高火力の時限爆弾を用いた、定刻での全員の殺害と全証拠の隠滅

共犯者については源治、熊沢、南條が全エピソード共通。
幻想パートでベアトリーチェがロノウェ、ワルギリアを従えているのはそのヒントか。
熊沢と南條は、Ep4にて多額の現金を受け取っていたことを思わせる記述がある。
源治はその忠誠心からと考えるのが妥当だろう。
他では例えば、Ep1においては紗音の死体偽装に協力している秀吉(と、恐らくは絵羽)が、
Ep2では礼拝堂の施錠について偽証している楼座が共犯。
真里亞は共犯者ではないものの、無自覚に『ベアトリーチェ』を生み出す偽証に協力している。



「嘉音」は紗音が任意で入れ替わり、また殺すことが可能な駒。
Ep7のベアトリーチェ殺人事件で語られたように、幻想の人格を殺すことができるのはそれを生み出した者だけ。
嘉音が『死ぬ』場合、それは紗音による他殺であり、かつ死体はどこにも存在しない。
この特性はうみねこの赤字バトルにおいて反則級の凶悪さを持っている。
他、メタ視点では「紗音と『もう一人』のどちらか一方しか報われない恋」を描写するために必要な駒。

そして不可能犯罪の演出としてはほとんど活用されていないが、紗音の人格は2つではなく3つ。
「紗音」「嘉音」「ベアトリーチェ」の3名で、そうでなければEp3の南條殺しの説明がつかない。
Ep3冒頭の連鎖密室において犯人はベアトリーチェ人格として生存していて、終盤で南條を殺害している。




900tもの爆薬を搭載した時限爆弾は『六軒島爆発事故』の原因であり、「私はだぁれ?」への回答。
紗音にとっては島を猫箱に閉ざすための道具であり、魔法の行使に際してリスクを高めるための道具だった。


Why done it ?

前提として、以下の背景がある

  • 戦人への恋心を受け持ったベアトリーチェの人格と、譲治と恋をしている紗音の人格が同時に存在する
  • 譲治にプロポーズを受ける年に、かつて「白馬に乗って来る」と言った戦人が六軒島に戻ってくる
  • 今まで人生の岐路において自分で何かを決断できた経験が無く、自分では運命を選ぶことができない
  • 戦人との人生、譲治との人生の双方に対して、奇跡でも起こらない限り幸福にはなれないと考えている


そして動機は複雑な表現になるが、「自分の運命を定める、『奇跡』という目のあるルーレットを回すため」。
その奇跡を呼び寄せる魔法の力を高めるために、リスクを伴うための道具として島の全員の命を賭した。
強力な魔法には大きなリスクが必要という考え方は、紗音の魔法体系に関する持論である。
また、単に譲治と戦人のどちらかを選ぶためのものでないことは先述の通りである。
どちらを選ぶ出目も奇跡的な低確率でなければならず、故にコイントスで決めるわけにはいかなかった。



ルーレットの出目は以下の3つ。上2つが『奇跡』の目となる。

  • 誰かが碑文を解く
  • 戦人が殺人事件の犯人を暴き、その上で紗音の心を理解する
  • 時間切れで全員死亡

誰かが碑文を解くケースでは、ベアトリーチェは敗北して消滅。
紗音は自分が「恋のできない体」であっても、譲治と幸せになれることを信じられる。


戦人が紗音を理解するケースでは、即ち戦人に『魔法』を認めさせてベアトリーチェの勝利。
(無論ここでの『魔法』はカップの中に飴玉を生み出す手品を指しての『魔法』と同じ)
譲治との恋に終止符を打ち、戦人に思いを打ち明けるための勇気を得る。


時間切れのケースでは、紗音とベアトリーチェの双方が死後の世界で想い人と結ばれる。
自身の行く道を指して「運命の袋小路」と呼んでいる紗音にとっては、
全員が死亡するこの最悪の出目さえも救いの一つなのかもしれない。


犯行計画

先述したように「嘉音」の存在はゲーム盤上での赤字バトルを難解にするためと、
紗音とベアトリーチェとの間での恋心の葛藤を直接的には描写できない事情のためである。
実際のところ、嘉音に扮したところで戦人と面と向かって話をすれば恐らくバレバレだろう。
一なる真実の世界において、紗音の犯行計画の中に嘉音の存在が含まれていたとは考えにくい。


また、紗音はルーレットで奇跡の目が出た場合、その果てに幸福になることを望んでいる。
例えば第一の晩で紗音が親族一同を惨殺した後、戦人が謎を解いて紗音の心に思い至ったとして、
戦人が殺人を水に流して紗音を受け入れるとは到底思えない。


以上から、実際の犯行計画には「嘉音」の偽装は存在せず、またEp4〜Ep6がそうであったように、
狂言殺人をベースに戦人への出題とするつもりだったのではないだろうか。
それだけでは紗音の動機に思い至ることは極めて困難なので、犯人が特定された時点で
Ep4のラストシーンのように戦人に6年前の事について問うつもりだったと思われる。


ちなみに碑文の方は特に誰かに解かせたかったわけではないのかもしれないが、
大人親族を排除すると正解に辿り着く可能性が高いのは譲治か戦人となる。
よって、第一、第二の晩で大人親族+郷田を排除。
さらに「金蔵の死亡」、「紗音の死亡」を偽証して事件を進めるのが最もスマートだろう。